Josef Myslivecek

ボヘミアの作曲家
ヨーゼフ・ミスリヴェチェク(Josef Myslivecek 1737 - 81)は、ボヘミア生まれの作曲家でヴァイオリニストです。イタリアのボローニャ(右の写真)に行き、マルティーニ神父の教えを受けました。ちょうどこのとき、モーツァルトが神父の指導を受けるためにやってきて、知り合いになりました。
モーツァルトはボローニャで権威ある《音楽協会》に入会するための試験を受け、入会が認められていますが、ミスリヴェチェックも1771年に《音楽協会》への入会を許されています。
ミスリヴェチェクは数々の女性との間で浮き名を流しましたが、そのせいかどうかはわかりせんが、梅毒にかかり、ミュンヘンに行って病院で治療を受けました。
このときもモーツァルトがミュンヘンを訪れ、彼と再会しています。18歳のモーツァルトは、ザルツブルクのレオポルドに宛てて、顔も崩れてすっかり変わり果ててしまったミスリヴェチェックの気の毒なさまについてかなり詳しく書き送っています。ミスリヴェチェクの作風

ミスリヴェチェクは、ヴァイオリン伴奏付きのソナタ、クラヴィーア・ソナタ、クラヴィーアのための小品を残していますが、モーツァルトは、彼のクラヴィーア・ソナタを高く評価していました。マンハイムからレオポルドに宛てて次のように書き送っています。

「ミスリヴェチェクのソナタがどんなものか、知っていますよ。ミュンヒェンで弾いたことがありますから。それはまったく軽快で、耳に快い曲です。ぼくの考えでは、お姉さんが弾くなら……表情たっぷりに、うんと趣味よく、情熱をこめて弾くといいと思います。それに暗譜でね。これらのソナタは誰にでも気に入られるにちがいないし、暗譜しやすいし、適当な早さで弾けば、注目を惹くでしょう。」
(1777年11月13日付。白水社・「モーツァルト書簡全集V」より)

ミスリヴェチェクの作品

私は、このモーツァルトが言及している作品のスコアを見つけることはできませんでしたが、1777年にロンドンで出版された 《チェンバロまたはピアノフォルテのための六曲のやさしいディヴェルティメント》 をお聴きいただければ、全体的にモーツァルトと似た雰囲気を持っていることがおわかりいただけるかと思います。

ディヴェルティメントというタイトルは、ヴァーゲンザイルの場合と異なり、ソナタを意味しているわけではなく、初心者向けの優しい曲を集めた小品集です。それでもミスリヴェチェックの作風の一端を垣間見るには十分だと思います。全体的にモーツァルトと似た雰囲気を持っていると思います。
例えば第5番ト長調冒頭のテーマ(第1 ― 8小節)からモーツァルトの息づかいを聴くことは容易ですし、第6番ハ長調の第1楽章は、有名なKV330のソナタと全体的によく似ています。特に前者の(第7小節)は、後者の(第38 ― 39小節)の音型と同じです。伴奏のパターンの変化も自在で、適度に左手も動き、両手の掛け合いも面白いです。  
全体的にミスリヴェチェックのこの曲集には「歌」の要素が濃いように思いますが、これは必ずしもイタリアでの経験だけのせいではないのでしょう。ミスリヴェチェックの叙情性は、ガルッピやルティーニとも異なり、敢えて言えばボヘミアの民謡の要素から来ているのかもしれません。

 ミスリヴェチェク:クラヴィーアのための6曲のディヴェルティメント 
                 第4番 ト長調(16KB)

 ミスリヴェチェク:   同  第5番 ト長調(20KB)

 ミスリヴェチェク:   同  第6番 ハ長調(19KB)

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