ドゥシェックは、交響曲、室内楽とともにクラヴィーアのための作品を残しています。8曲からなるクラヴィーア・ソナタは、明らかに愛好家の練習用に書かれています。
8つのソナタのうち7曲が、急 ― 緩 ― 急の3楽章形式を取っています。
ト長調のソナタを見ますと、まず第1楽章アレグロでは、断片的にはモーツァルトと似た音型や伴奏が次々に出現しますが、曲想は魅力を欠いて貧しく、それはあちこちで不器用に止まってしまい、自然に流れていかない音楽の運び方が目立ちます。
第2楽章アンダンテ・グラティオーソでは、モーツァルトも用いたシチリアーノ風のテーマが用いられていますが(第1 ― 4小節)、4小節でぷつんと終わってしまい、優雅な雰囲気にはほど遠いものがあります。
第3楽章プレストは、確かに生き生きとしていますが、モーツァルトのように音楽の一貫した流れと自然な変化とが結びついていかず、単なる指の運動に留まっているように思えます。
全体的に見て、ソナタの楽章とはとても呼べないような構築力の欠如など、モーツァルト、ハイドン、クレメンティのソナタの足下にも及ばないような作品であることは確かでしょう。
ドゥシェック:クラヴィーア・ソナタ ト長調 第1楽章(9KB)
同 第2楽章(8KB)
同 第3楽章(5KB)
ただ、ドゥシェックのソナタの楽章には、ボヘミアの民俗音楽の香りが感じられ、それがほかの音楽家にはない魅力の一つになっています。
ハ長調のソナタの第2楽章(第1 ― 6小節)やそのフィナーレ、ト長調のソナタの第2楽章(第1 ― 4小節)をその例として挙げておきたいと思います。
ドゥシェック:クラヴィーア・ソナタ ハ長調 第1楽章(11KB)
同 第2楽章(12KB)
同 第3楽章(8KB)