コンサート批評 (2022)

  Yuko HISAMOTO  Concert

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久元祐子 ピアノリサイタル
(2022.11.23 サントリーホールブルーローズ)

ショパン 2023年2月号
久元祐子モーツァルト・ソナタ全曲演奏会vol.6〈最終回〉
シリーズを締めくくった
モーツァルトの光と影
2016年より開催してきた久元祐子さんによる『モーツァルト・ソナタ全曲演奏会』の最終回。今回は、舞台中央に美しい木目の艶やかなピアノが置かれ、聴衆の多くがその気品溢れる姿に目を見張りつつ客席に着いた。
満席となった会場に久元さんが登場し、温かなウィンナートーンの伝統を継承してきたベーゼンドルファー社のピアノから、モーツァルトの明るく軽やかな音楽が溢れ出る。このピアノは『Model 280VCピラミッド・マホガニー』という特別モデルであり、久元さん自身が理想の音を追い求め、技術者と共に試行錯誤を重ねて完成させた楽器だ。優美な佇まいもさることながら、紡がれる音の豊かさに脱帽する。典雅な音色はもちろん、哀愁を帯びた世界に誘う音も聴かせ、“光と影の交錯”に引きつけられた。
プログラムの最後を飾ったのは、《ピアノ・ソナタ ハ短調K457》。モーツァルトのピアノ・ソナタ18曲の中で、短調は2曲のみ。そのうちの一つである。《幻想曲 ハ短調K475》が前奏として置かれ、力強く劇的な展開を見せた。作曲家が一音に込めた思いを、久元さんは真っ直ぐに聴衆へ届ける。緊張感とダイナミックさに満ちた演奏によってモーツァルトのダークサイドに触れ、会場全体が高揚感に包 まれていった。
興奮冷めやらぬ観客の拍手に応えたアンコールは、モーツァルト《アヴェ・ヴェルム・コルプス》とグリーグ《アリエッタ》。慈愛に満ちた音色で、6年にわたって続いてきたシリーズの幕を閉じた。
11月23日 サントリーホール ブルーローズ
取材・文/鬼木玲子(音楽ライター)
音楽の友 2023年2月号
久元祐子モーツァルト・ソナタ全曲演奏会vol.6〈最終回〉
ベーゼンドルファーのモデル280VCピラミッド・マホガニーの美しい楽器が舞台上で、開演前から存在感を放っていた。さまざまなオリジナル楽器を弾き、ピリオド奏法にも通じた久元は引き締まった響き、粒のそろったタッチで一音ー音を慈しむかのように再現する。いくぶん仄暗い音色ながら一切の夾雑物がなく、純度の高い響きだ。2曲の「ロンド」は切れ目なく演奏され、静謐な佇まいで一貫した。へ長調(旧全集第18番)のソナタでもデリケートな味わいが際立ち、アーティキュレーションは明快かつ美しい。後半冒頭のK.545にもじっくりと向き合い、躍動感はいささか後退する半面、久元独特の味わいが滲み出る。右手の装飾音で遊ぶ余裕もあれば、第2楽章から深い感情を引き出す手腕にも事欠かず、いつもよリ何段階か上の音楽に思えた。ウィーン時代の作曲家の「早すぎる晩年」を暗示するK.475と457のセットでは一層の踏み込みをみせ、強靭な打鍵が「大きな作曲家」像を提示する。《幻想曲》の中間部で一瞬、ウィーンの優雅な感触が現れたものの、全体では重く晦渋な音楽が支配する。ソナタの第2楽章ではベートーヴェンの「悲愴」ソナタヘの“予感”も漂わせるなど、音楽史上の立ち位置まで俯瞰した優れた演奏でシリーズの掉尾を飾った。
池田卓夫
会場=サントリーホールプルーローズ/曲目=モーツァルト「ロンド」K.485、K.511 、「ピアノ・ソナタ」ヘ長調K.533/K.494、「同ソナタ」K.545、「同ソナタ」K.457、《幻想曲》K.475
音楽現代 2023年2月号
久元祐子「モ―ツァルト・ソナタ全曲演奏会Vol.6」(最終回)
2016年からのシリーズ完結編は、モーツァルトがウィーンで活躍した1784〜88年のピアノ・ソナタやロンド。プラハでのオペラの成功に父の死という人生の明暗を映す作品群だ。久元のピアノは落ち着いたテンポで曲を理知的に構成する。短調の曲でも激情に流れず、無垢な微笑で悲劇に対峙するかのようだ。それがイ短調のロンド(K511)のかなしみを倍加させた。ベーゼンドルファーの立ち上がりの鋭敏な響きも光と影の交錯を描くのに適した。ハ短調の幻想曲(K475)を前奏にしてハ短調ソナタ(K457)を続けて弾き、ソナタの奥行きを実感させた。第1楽章は深淵に響き、第2楽章は伸びやかに歌う。ベートーヴェンのソナタ第8番ハ短調(悲愴)に影響を与えたと分かる演奏だ。しかし随所の柔和な音色がモーツァルトの古典美を印象付ける。技と心に余裕のある明快な表現は久元がモーツァルトの第一人者であることを改めて証明した。
(11月23日、サントリーホール・ブルーローズ)(池上輝彦)

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