CD 批評 (2021)

  Yuko HISAMOTO  CD

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《ベートーヴェン:ソナタ 第8番「悲愴」& 第21番「ワルトシュタイン」》
(2021/5/25)

・ステレオ2021年6月号
クラシック音源のハイエンド
マイスター・ミュージック

 世界に2台しか存在しない特別なピアノ、久元祐子のために製作されたベーゼンドルファー280VC Pyramid Mahoganyをウィーンから紀尾井ホールに空輸してコンサートと並行して行われたDXD384kHzワンポイント録音作品。妥協の無さに脱帽。

トーンマイスターが行なうワンポイント・ハイレゾ録音
 高音質録音で定評のある、クラシック専門レーベルのマイスター・ミュージック。この評価を確立させたのが、主催者である平井義也さんの存在だ。平井さんは日本人としては初めて、ドイツのデトモルト音楽大学に留学し、ディプロム・トーンマイスターの称号を獲得した。これはドイツの国家資格で、音楽、演奏、録音といった複合的な観点から実技を学んだ者に与えられ、取得者の多くは大手レコード会社や放送局、オペラハウスなどに就職している。平井さんも帰国後はソニー・ミュージックに入社し、20年に渡って制作・販促・営業部門で活躍していた。そして1994年に満を持してこのレーベルを立ち上げたわけだ。
 同社の音を技術面で支えているのは、DXD384kHzのハイレゾ録音と、デトリック・デ・ゲアール氏の製作したスウェーデン製マイクロホンによる。ワンポイントレコーディングだ。特にこのマイクは世界に十数セットしかない希少品で、8Hz〜200kHzの帯域をカバーし、単一指向、無指向、双指向を自由に変えられるという優れモノ。 「これを手に入れたことによって、私が常に重視する倍音を含んだホールトーンがそのまま収録できるようになり、表現の幅が大きく拡がりました。その代わり、編集やマスタリングにかかる作業時間は3倍くらいに増えてしまったんですけどね(笑)」と語る平井さん。トーンマイスターの知識とノウハウを駆使し、すべてのアルバムにおいて曲目や演奏家、編成やホールの響きを計算して入念にセッティングを行なう。「クラシックの録音には、そのために最適化された機材を使う必要がある」という信念のもと、マイクアンプやケーブル、電源等の機材も専用にチューニングされたものを使用。
これだけのこだわりを持って長年続けていても、まだ録音の度に新しい発見があり、更なる高みへの追及が止むことはないという。「演奏家の意図をいかに正確に汲み取り、ハイレゾならではの情報量でその場の雰囲気や臨場感を引き出すか、これはもう永遠のテーマですね」と、感性のフレッシュな若者にこそ体感してほしい、ハイクォリティなCDレーベルである。

平井義也
日本の大学で電子工学を学んだ後、単身ドイツへ渡ってデトモルト音楽大学に留学。そこで音楽学、音響工学、電子工学、作曲法、和声楽、ピアノ等を学び、邦人初となるディプロム・ トーンマイスターの称号を獲得する。帰国後はソニー・ミュージックに入社してクラシックのCD制作などに携わり、1994年に独立し、「マイスター・ミュージック」を設立、現在に至る。

 

・季刊・オーディオ・アクセサリー 2021Summer(181号)
小林貢の推薦
「ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ」は2本の高性能マイクによるダイレクト2trのデジタル録音作。生々しい演奏を楽しむことが出来る。ベーゼンドルファーならではの重厚感と深みのある響きがリアルに再現され、彼女のテクニックや表現力の高さが存分に発揮された作品といえるだろう。

 

・音楽現代(2021年7月号)
準推薦 ウィーンから持ち込まれたベーゼンドルファー280VC(ピラミッド・マホガニー)を使用した、ベートーヴェン・プログラムによるライブ録音。プログラムの要である「悲愴」も「ワルトシュタイン」も非常に堅実な演奏。隅々まで丁寧に描いていく音楽づくりからは、久元の音楽に対する誠実さがひしひしと伝わってくる。欲を言えば、もう少し奔放な表情も見たかった。例えば、ワルトシュタインの3楽章。久元のタッチや音楽運びに確固たる信念を感じるものの、目の前にぱっと景色が広がるような、自由奔放さを感じてみたかったのだ。とはいえ、そんなことを言うのは贅沢かと思うくらい完成度は高い。最後に収録されている3曲のアンコールもまた素晴らしい。 ☆石丸裕美子

 

・ぶらあぼ (2021年7月号)
本作は、ベーゼンドルファー社が久元祐子のために制作したピラミッドマホガニーの280VCのお披露ロコンサート(2020年11月12日、紀尾井ホール)のライブ録音である。ベートーヴェンの「悲愴」「ワルトシュタイン」のソナタ、アンコールで演奏された「エリーゼのために」やチャイコフスキーとグリーグの小品も収める。深く伸びる低音のバス、温かな中音域の旋律を、久元は楽器との対話を慈しむように奏でる。「ワルトシュタイン」終楽章は、ほかのどの楽器・奏者の演奏でも耳にしたことのない、幻想的な響きの交錯と重厚な奥行きとを聴かせる名演である。(飯田有抄)

 

・レコード芸術 準特選盤 (2021年7月号)
那須田務 ●Tsutomu Nasuda
[推薦] 昨年11月12日に紀尾井ホールで行なわれた久元祐子のリサイタルのライヴ録音。ベーゼンドルファーの280VCのお披露日でもあった。木目の美しいピラミッド・マホガニーをに外装も用いたグランド・ビアノで同社の説明によれば、「ハンマー・アクション部分、タッチの調整、音色、木目模様やデザインの細部にいたるまで」久元のためにウィーンで製作された「久元仕様」とのこと。ベートーヴェンの《悲愴》と《ワルトシュタイン》をメインとする。すなわちこの2曲を通してハ短調からハ長調へ、苦悩から歓喜へという情感の移り変わりが、コロナ終息の期待へと繋がる含蓄のある選曲である。《悲愴》第1楽章は19世紀ウィーンのビアノ特有の、木の箱を鳴らすような温かな響きが快い。主部の粒立ちのよい軽やかなタッチも同様だ。終楽章では温もりのある響きと素朴な「歌」と「語り」が格別な味わいを添える。続いてもともと《ワルトシュタイン》の緩徐楽章として作曲された《アンダンテ・ファヴォリ》。これも多彩な音色とニュアンスに富んだアーティキュレーションの醸し出す柔らかな陰影が美しい。《ワルトシュタイン》の第1楽章の和音連打はサウンドもテンポも重すぎず、その周辺の軽やかなパッセージを含めて、音域による音色の違いが音楽を立体的に聴かせる。序奏は朝靄のような柔らかな光に溢れ、後者は率直で大らか。アンコール的に弾かれた3曲では枯れた味わいの〈秋の歌〉がすばらしい。

草野次郎 ●Jiro Kusano
[準] 久元祐子の昨年のリサイタル・ライヴである。ここで使用されたピアノはマホガニーの木目調ベーゼンドルファーで、久元のために製造されウィーンから運ばれてきたものらしい。このビアノは昨年のザルツブルク音楽祭でシフがリサイタルで使っていたピアノと同タイプのベーゼンドルファーのようで(シフのビアノにはA.S.のイニシャルが入っていた)、その響きの独特の美しさはウィーンの老舗メーカーとしての重さと深さがある。往年のバックハウスの演奏で聴き親しんだベーゼンドルファーの味わい深い響きが最新のライヴ録音で聴けることは大変有り難い。冒頭、ベートーヴェンの《悲愴》から始まるが最初のハ短調主和音の強打からすでにこのビアノの重厚で柔らかな響きの奥行きを感じ取ることができる。久元は強弱のメリハリをつけて、フレージングを明確に示し、堅回な構成的造形をつくり出している。第2楽草の白眉の旋律では、このビアノの中音域の渋く艶やかな音色で、あたかもチェロの朗々としたカンタービレが響きから浮かび上がってくる感じだ。このような音色であれば、さらにロマンティックな情感を示してほしい気もする。《ワルトシュタイン》も堂々とした安定感ある演奏でこのビアノと一心同体の表現が聴き取れる。ベートーヴェンの他にはチャイコフスキーとグリーグの小品が収められているが、どちらもこのビアノの艶やかで温もりある音色から抒情的な美しさが溢れ出ている。

常盤 清 ●Kiyoshi Tokiwa
[録音評]特別に用意されたベーゼンドルファーで演奏した当日の会場ではきっとすばらしい響きであったと想像する。しかし残念ながら本作ではそのすばらしさが十分に収録できているとは思えない。よく言えばソフトな音色だがフル・コンサート・グランド・ピアノの重厚で豪華に均整の取れたバランスとは異なる抜け切らない物足りなさを感じる曇ったピアノ音に仕上がっている。

 

CD批評 2018