クラヴィコードは、モーツァルトにとっても身近な楽器だったようです。
1763年7月、西方への大旅行に途中、モーツァルト一家は故郷のアウグスブルクに立ち寄りますが、このときレオポルトは、ヨハン・アンドレアス・シュタインから、旅行用のクラヴィコードを購入しています。この後モーツァルト一家は、パリやロンドンを訪れますが、逗留先でこのクラヴィコードをつまびき、作曲にいそしんだのかもしれません。
もちろん、モーツァルトはチェンバロ、そして後にはピアノフォルテを自宅に置き、これらの楽器を使って作曲したわけですが、同時にクラヴィコードも愛用していたのではないでしょうか。
ウィーン後期の名作、ハ長調K545のクラヴィーア・ソナタは、4オクターブ半の私のクラヴィコードで、音域はぴったり収まります。この名曲をクラヴィコードで弾くとき、現代のグランドピアノで弾くときとはまた異なる、デリケートな味わいが感じられるような気がします。