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ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会Vol.1 (2023.11.7 サントリーホールブルーローズ)
- 音楽の友 2024年3月号
- ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会Vol.1
2022年にモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会を終えた久元が、新たにベートーヴェンのツィクルスをスタート。第1回は初期の作品ということもあり、とくに最初の「第1番」op.2-1には古典派の先輩たちの教えが聴こえる。とはいえ革新的なベートーヴェン。音程やリズムに尖ったアプローチが見られ、「第5番」では中期や後期の作品を予感させる瞬間もある。使用楽器は久元愛奏の「ベーゼンドルファー280VC ピラミッド・マホガニー」。打鍵後の残響が音楽を形づくるような、のびやかで豊かな音色。その選択肢のなかから久元は的確に響きを掴み、古典派の様式・形式の正統を弾き示す。「第4番」はベートーヴェンが好んだ変ホ長調。打鍵された黒鍵の弦のうねりと妖しい響きに、ベートーヴェンがこの調を好んだのもわかる気がした。なによりそう奏した久元の技術に敬服。そして《悲愴》で有名な「第8番」は、変ホ長調の平行調のハ短調。冒頭から印象深く、意気揚々の変ホ長調の世界観を激しく打ち破る。初期のソナタのなかでも緻密に創られた傑作で、久元が「第4番」と並べたことで、2曲の魅力が倍増。等々、一瞬も聴き逃がしたくない名演の当夜。次回以降がまた楽しみだ。
上田弘子
会場=サントリーホール〈小〉/曲目=ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第1番」「同第4番」「同第5番」「同第8番《悲愴》」
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