「巡礼の年 第2年 『イタリア』

  Yuko HISAMOTO  CD

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久元祐子 「巡礼の年 第2年『イタリア』 (2004/10/21)

リスト「巡礼の年:第2年」
2004/10/21   CD批評 へ
Bishop Records
EXAC0002
定価  2500円

録音 2004年3月24日〜25日
相模湖交流センター

piano : Boesendorfer Imperial (model 275)
・フランツ・リスト:巡礼の年:第2年 「イタリア」
「婚礼」、「物想いに沈む人」、「サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ」
「ペトラルカのソネット第47番」、「ペトラルカのソネット第104番」、
「ペトラルカのソネット第123番」
「ダンテを読んで*ソナタ風幻想曲」
ピアノ:久元 祐子
recording coordinaion : MIZUSHIMA Kohki
Piano Tuner : TOMONO Atsushi
recorded and mastered by HANASHIMA Isamu
photography : SAKAYORI Katsuo and KURITA Hisateru
cover design : TANIKAWA Yuko
directed by NAKAMURA Hatsuho and KONDO Hideaki
produced by KONDO Hideaki
special thanks to : TAMURA Hiroshi and TSUTSUI Kazutaka

 世界中でもっともフランス料理屋の平均水準が高い街はどこか。パリでもリヨンでもストラスブールでもない。ましてやニューヨークでもロンドンでもない。
 東京である。日本人は持ち前のまじめさと細心の注意深さでもって、ごく当たり前のように丁寧な料理を作る。これに比べれば、パリの大半の店など、粗っぽくて・・・。
 久元女史のリストを聴きながら、「ああ、これは東京のフランス料理屋みたいだ」と思った。加えて、清潔でもあるし。
 そして、まじめで注意深くて丁寧な仕事が、グラム単位の精密さを必要とするデザートにもっとも向いているように、久元女史の音楽性は、静かで叙情的な作品にもっともふさわしい。甘美に溺れず、悲嘆に沈まず、有頂天にならないという控えめなバランスの取り方は、軽やかな味覚を組み合わせたデザートのようだ。久元女史のリストには、きちんと作られた甘味を口に含んだときのような、安らぎがあると思う。
 音楽を料理にたとえるのは不謹慎であろうか。私はそうは思わない。音楽も料理も、人を幸福にするという点ではどこも変わらぬ人間の知恵であるから。

許 光俊  

<プログラム・ノート>    
 1837年、リストとマリー・ダグー伯爵夫人は、パリから逃れ、イタリア北部の湖水地方を訪れた。後に「巡礼の年第2年・イタリア」としてまとめられる曲集は、このイタリア旅行で触れた絵画、文学などから得たインスピレーションをもとに作曲された。出版されたのは1858年のことである。7曲からなり、それぞれ単独で弾かれることも多く、私もそうすることもあるが、続けて演奏すると全体の構成や流れがよく見えてくるような気がする。
 ラファエロ「マリアの結婚」第1曲「婚礼」は、ラファエロ(1483−1520)の名画「マリアの結婚」(絵)にインスピレーションを得て作曲された。絵には、5人の処女にかしづかれた清らかなマリアの姿が描かれ、高僧の手から指輪を渡されるマリアが描かれている。調和のとれた構図から、厳粛な喜びに満ちた雰囲気が伝わってくる。曲も、神に選ばれた結婚を祝福するかのような気品に満ちた喜びにあふれている。第2曲「物想いに沈む人」は対照的に沈んだ瞑想の雰囲気。フィレンツェのメディチ家礼拝堂にあるミケランジェロ(1475−1564)の彫刻、瞑想するロレンツォ像に霊感を得ている。同音反復が効果的に使われている。
 第3曲「サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ」は、この曲の中では唯一軽い、行進曲風の曲だ。サルヴァトール・ローザは、イタリア・バロック絵画で異彩を放っている画家。「私はよく場所を変える。しかし私にはいつも希望がある。私はいつも同じ存在だ。」(訳:ニコスさん)というカンツォネッタの歌詞が、ピアノ楽譜の中に書き込まれており、この歌のメロディーは、あるときはソプラノのメロディラインに、またあるときはバスのラインに現れる。
続いてペトラルカのソネットが3曲置かれている。イタリア・ルネサンスを代表する叙情詩人、フランチェスコ・ペトラルカ(1304−74)の代表作に「抒情詩集」があるが、この中に収められているソネットから、第47番、第104番第123番が録られている。ソネットは14行の定型詩で、第104番、第123番については、イタリア人フルーティスト、ニコスさんに訳していただいたので、リンク先からご覧いただきたい。

 最後の第7曲「ダンテを読んで」は、ほかの6曲に比べ、規模が相当大きい名曲である。ダンテ(1265−1321)の「神曲」を読んだ印象からインスピレーションを得て作曲された。数次にわたる改訂を経て、1849年に完成されている。ダンテの「神曲」は、「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の三部からなり、物語の主人公であるダンテがこれらの冥界を彷徨する一大叙事詩である。曲では、まずオクターヴで鳴らされる序奏によって地獄への門が開かれる。やがて眼前に繰り広げられるのは、地獄の世界。うめくようなテーマから苦悩に満ちた混沌が続く。やがて天上から救済を思わせる調べが降りて来るが、葛藤と混沌を思わせる音楽の交錯を経て、最後は輝かしいコーダによって曲は締めくくられる。

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