第10 回 セレモアつくば チャリティ コンサート
2008.年 4 月15 日(火) 19:00 サントリーホール
Program note

  
2010.4.6
2008.9.1
2008.4.15
2007.7.31
2006.9.30
2006.4.22
2005.9.13
2004.9.1
2003.10.29
2003.5.31
2002.11.20
2002.5.9



 ベートーヴェン : エグモント序曲 作品84

    
 ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73   

  第1楽章 Allegro 
  第2楽章 Adagio un poco mosso- attacca: 
  第3楽章 Rondo(Allegro) 


 ベートーヴェン : 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 《運命》     

  第1楽章 Allegro con brio 
  第2楽章 Andante con moto 
  第3楽章 Allegro 
  第4楽章 Allegro  


 日本フィルハーモニー交響弦楽団  指揮 : 小林 研一郎  ピアノ : 久元 祐子

 主催:(株)セレモアつくば    マネジメント:プロ アルテ ムジケ

<プログラム・ノート>    久元 祐子
 
今夜は、ドイツの大作曲家、ルートヴッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770−1827)の作品をお聴きいただきます。
 ベートーヴェンは、ボンの宮廷に仕える音楽家の家に生まれ、子供の頃からピアノの即興演奏に才能を発揮しました。1792年、ウィーンに出て独立した音楽家としての人生を歩み始めます。前の年にモーツァルトは亡くなっていました。若きベートーヴェンの後援者だったワルトシュタイン伯爵は、「モーツァルトの魂をハイドンの手から受けるように」と激励したと言われます。
 ウィーンでは、ハイドンに師事し、モーツァルトの作品も研究しながら、次第に独自の作風を築いていきます。名声は高まっていきましたが、音楽家として致命的な耳の疾患に悩まされるようになります。絶望から自殺まで考えますが、1802年、「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いて、絶望を克服するという意志の強さを見せ、この後、作風はさらに充実し、名作を次々に書いていきました。きょうお聴きいただきます3曲は、いずれも、ベートーヴェンが最も気力、体力とも充実した、中期を代表する名曲です。
 後期には体調が悪化し、甥カールとの葛藤など苦悩が深まったと言われます。しかし、ほとんど耳が聞こえない、沈黙の中から生まれたピアノ・ソナタ、弦楽四重奏曲など晩年の作品群は、比類のない神々しさと精神性を湛え、至高の芸術してそびえ立っています。
 ベートーヴェンは数々の奇行でも知られましたが、その存在は、ウィーン市民の宝でした。葬儀には数万人のウィーン市民が駆けつけたと言われています。

ベートーヴェン : エグモント序曲 作品84

《エグモント Egmont》は、文豪ゲーテが1780年代の終わりに著した戯曲です。オランダ独立戦争の指導者、エグモント伯の英雄的行為と悲劇的な死を描いた作品です。ベートーヴェンは、この戯曲に付帯音楽を書き、この作品は、1810年5月24日、ウィーンのブルク劇場でベートーヴェン自身の指揮により初演されました。
 この作品全体は今日ではほとんど演奏されることはありませんが、きょう演奏される序曲は、単独でよく演奏される人気作品となっています。
オーケストラの編成は、弦五部、フルート(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペットおよびティンパニとなっています。
 曲は、序奏をはじめ5つの部分から出来ています。オーケストラ全体の音が鳴り、力強く和音が奏でられた後、印象的なユニゾン(同じ高さの音)で旋律が出現し、序奏は全体的に悲劇的な気分が支配します。続く部分ではテンポが速くなり、テーマがチェロ、そしてヴァイオリンで奏され、ふたつの応答部分に分かれる次のテーマが出現します。音楽が発展していく展開部はごく短く、もう一度、さきほどのテーマが戻ってきて、音楽はいよいよ最後のクライマックスを迎えます。明るい気分が広がり、金管楽器も華やかに活躍して新しい旋律を奏し、これが発展して、輝かしく曲を閉じます。
 

◇ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73 《皇帝》
 ベートーヴェンの5曲あるピアノ協奏曲の最後の作品。1809年に完成されました。この曲を作曲していた頃、ベートーヴェンが住んでいたウィーンは、ナポレオン率いるフランス軍の攻撃にさらされていました。砲撃が轟く中、ベートーヴェンは、甥カールの家の地下室に閉じこもり、この曲を作曲したと言われています。ウィーンは陥落し、オーストリア軍は白旗を掲げて、ウィーンはフランス軍の占領下に入りました。
 そのような厳しく、悲劇的な状況の中でつくられたにもかかわらず、この協奏曲は、力強いエネルギーと堂々とした気風にあふれ、尽きることのない憧れも同居した、高い完成度を持っています。数あるピアノ協奏曲の中にそびえ立つ名曲と言ってもよいでしょう。ベートーヴェンの友人、ルドルフ大公に献呈されました。
 初演は、1811年11月28日、ライプツィヒのゲヴァントハウスで、ヨハン・フリードリッヒ・シュナイダーの独奏により行われ、大成功を収めました。その後、1812年2月15日、ケルントナートゥーア劇場で、弟子のカール・チェルニーによりウィーンでの初演が行われています。
 オーケストラの編成は、弦五部、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペットおよびティンパニとなっています。
 第1楽章はかなり長く、曲全体の中で中核をなしています。ベートーヴェンにとって、この変ホ長調という調は、「英雄」シンフォニーにも見られるように、力強いエネルギーと一種の闘争を現しているとも考えられます。曲は、初めにフル・オーケストラにより変ホ長調の主和音が力強く鳴らされ、すぐにピアノが比較的自由な雰囲気で入ります。この冒頭のピアノソロの中に、全曲を支配する動機が出現し、有機的に組み込まれて行きます。最初の部分は、典型的なスタイルに則り、まずオーケストラでテーマが提示されてから、ピアノが加わりますが、ピアノは柔らかい表情で登場します。楽章の終盤で、ベートーヴェンは、「カデンツァ(ピアノ・ソロで比較的自由な雰囲気で弾く部分)を挿入せず、次に進むように」という指示を書いています。演奏者の任意に任せられたカデンツァはこの曲にはなく、ベートーヴェン自身によって、冒頭を含め、カデンツァ的な部分はすべて曲の中に組み込まれています。
 第2楽章は、弦楽の合奏により、夜明けの光を感じるような穏やかな雰囲気でテーマが提示されます。のびやかで美しい雰囲気が広がっていきます。神秘的なユニゾンの半音で次の楽章の変ホ長調を呼び込み、ピアニッシモ(最も弱い音)で第3楽章のテーマが予告された後、続けて終楽章になだれ込みます。
第3楽章は、躍動感あふれた雰囲気です。調を変化させながら、そして美しく色合いを変えながら、神聖な雰囲気も醸し出しています。平和な喜びの音楽を経て、終盤、ティンパニとともにピアノが静まっていきますが、最後は、ピアノが鍵盤上を駆けめぐり、オーケストラが力強いテーマを勇壮に奏で、エネルギーに満ちあふれたこの協奏曲を閉じます。
『皇帝』という愛称は、ベートーヴェンが名づけたわけではなく、誰がそう最初に呼んだのかもわかっていません。皇帝ナポレオンは、ベートーヴェンを始めとするウィーンの人々を苦しめた人物なので、この愛称はふさわしくないかもしれませんが、曲の雰囲気は、『皇帝』のイメージに近いということから、この愛称は広く定着しているのでしょう。
ベートーヴェン : 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 《運命》

 9曲あるベートーヴェンの交響曲の中で、また、すべての交響曲の中でも最も知られた曲と言ってもいいでしょう。ベートーヴェン中期の傑作群を代表する名曲で、1808年12月22日、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で初演されました。
 曲は4つの楽章から構成されています。有名な「運命の動機」の提示から始まる第1楽章、牧歌的な気分も垣間見える第2楽章、不安定な雰囲気の第3楽章スケルツォを経て、歓喜溢れる終楽章に向けて進んでいきます。
 『運命』というタイトルは、ベートーヴェンの弟子であったアントン・シントラーの証言として、ベートーヴェンが、この交響曲の楽譜を開き、第1楽章の冒頭を指差して、「このようにして運命は扉を叩くのだ」と語ったというエピソードに由来します。ただ、この証言の信憑性に疑問を持つ向きも多く、欧米では『運命』のタイトルが用いられることはほとんどありません。。
 オーケストラの編成は、弦五部、ピッコロ、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、コントラファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーンおよびティンパニとなっています。このうち、ピッコロ、コントラファゴットおよびトロンボーンは、第4楽章でのみ使用されます。
  第1楽章は、有名な「運命の動機」から始まります。この動機は、2小節目と4小節目にフェルマータ(音を長く伸ばす指示)がつけられており、この出だしのテンポ、2回のフェルマータをどう扱うかは、指揮者の解釈が最も注目されるところでしょう。この動機は、全曲を通じて、随所に出てきます。ホルンが次のテーマの登場を「運命の動機」で暗示し、穏やかな雰囲気の2番目のテーマに入っていきます。展開部では、さらに「運命の動機」を使いながら、変化に満ちた緻密な作曲技法が駆使されています。
 第2楽章は、テーマと3つの変奏、コーダ(楽章の最後の部分)から成り、二つのテーマが交互に変奏される形式を取っています。最初にヴィオラとチェロがユニゾンで穏やかなテーマを提示しますが、この中の動機は、二番目のテーマとも関連を持っています。ベートーヴェンの緻密な作曲技法がこのようなところからも窺えます。
 第3楽章は、スケルツォ楽章です。ベートーヴェンは、第3楽章によくこの形式を用いました。スケルツォと呼ばれる部分に、トリオと呼ばれる中間の部分が挟まっている形式です。スケルツォはふたつのテーマから成り、最初のテーマは低音の弦(チェロとコントラバス)による分散和音(アルペジオ)で、二番目のテーマはホルンの合奏によって提示されます。このテーマも「運命の動機」から派生しています。中間部のトリオではハ長調の、やや明るい雰囲気に転じ、テーマが重なりながら進行する形式で書かれています。再びスケルツォに戻りますが、終楽章へ移っていく、推移部と呼ばれる部分が50小節にも及び、途切れることなく終楽章へと続きます。推移部は、神秘的なピアニシモが続いた後、一気にクレッシェンドし、終楽章のテーマが輝かしく奏されます。
第4楽章は、前楽章の静かな緊張感から突然、明るい和音が鳴らされ、歓喜がほとばしるというイメージです。華やかで喜びに溢れた雰囲気で曲を閉じます。


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