ベーゼンドルファーで奏でるモーツァルト

ヤマハのベビーグランドが入った朝日カルチャーセンター新宿教室では、アシュケナージさんなど著名指揮者や人気演奏家など多くの音楽家のレクチャーコンサートが行われています。私も年に3,4回お声をかけていただき、熱心な受講生の皆さまとのひとときをご一緒してきました。住友三角ビルの高層階の窓からは、東京が見渡せる開放感。一度、高所恐怖症の声楽家の男性とご一緒したときには、ブラインドを全部おろしていただき、歌っていただいたことも。

今回は、「出張講座にしましょうよ!」と提案し、サントリーホールのブルーローズでのリサイタル「ハイドンとモーツァルト」のプレトークという位置づけとして、中野坂上のベーゼンドルファーショールームで開催させていただきました。「音が全然違う!!」とまず準備にいらしたスタッフの方が驚き、「気分が全然違う!」と常連の受講生の皆様も喜んでくださいました。

ベーゼンドルファーで弾くとき、少しでも力むと音は逆に詰まってしまい、響きが飛んでいきません。多くのベーゼンドルファーを弾いてきて肌で知っているつもりでもハイドンのロンドンソナタを前に、自身のパワーを出し過ぎてしまう傾向があることを痛感しました。ハイドンの最後のソナタは、彼の鍵盤楽器分野における最高傑作。変ホ長調の堂々たる分厚い和音から始まり、イギリス式アクションの楽器を知り、表現のウィングを広げたハイドンのパワーがみなぎる名曲です。還暦を過ぎ、長い宮仕えを辞し、自由な気分と大らかな遊び心と冒険心にも満ちています。ハイドンが暮らしたアイゼンシュタット近くのコウノトリが翼を広げて海に飛んでいった姿を思い出し、大きな呼吸で臨みたいと思います。

大学の講義は90分ですが、朝日カルチャーセンターの講義は、通常2時間休憩無しとのこと。熱心な受講生の皆様の根気に脱帽です。間の「休憩」替わりに3台のベーゼンドルファーを使ってピアノの歴史を紐解き、シューベルトやロマン派の小品を弾かせていただき気分転換。お話ししたり、演奏したり・・・楽しい「引っ越し講義」の一日でした。

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