中村征夫さん写真展で即興演奏

モーツァルトもベートーヴェンも即興演奏が得意でした。
与えられたテーマをもとに即興で変奏曲を弾いたり、サロンでファンタジーを演奏したり、・・・・しかし、録音のない時代、それらの音符たちは、宙に消えてしまいました。
現代では、ジャズピアニストさんたちは、日常的に”即興”を行っておられますが、私たちクラシックのピアノ弾きには、即興演奏の機会はそんなに多くはありません。

今日は、久しぶりに、即興演奏をさせていただきました。
写真家の中村征夫さんから、写真展「ひさかた」の効果音を・・・ということで、会場に流す音楽を、担当させていただくことになったのです。

即興で演奏し、3つのバージョンを録音しました。

プリペアードピアノで、幻想的で神秘的な音を狙ったもの
エラールを使い、懐かしい味わいのある音で入れたもの
ベーゼンドルファーで、温かなぬくもりのある、深い海に抱かれている音色のもの

征夫さんから音を出すタイミングを指示していただきましたが、収録しながら感じたのは、征夫さんの息の長さです。
海に潜ることを長年されてきたからなのか、もともとの大きく悠々としたお人柄なのか、わかりませんが、とにかく、息が、ゆったりと長いのです。
音楽をするとき、最も大切な「息」という面で新たな発見がありました。

普段クラシック音楽のアンサンブルでは、テンポを決める段階で息の長さも決まってきますが、準備なしに入る即興の世界は、その人の持っているもともとの「息」が、素の状態で出てくるのです。
響きのアイデアは、長年ピアノを弾いてきているので、次々に浮かびましたが、息の長さがはじめに与えられて音楽をつくるという経験は、初めてでした。
征夫さんに、心底感服した次第です。

以前、秋田から帰ってくるとき、空港で偶然、征夫さんにお会いしたことがあります。
みんながせかせかと飛行機に乗り込んでいるとき、じいっと静かに雪景色を窓から眺めている後ろ姿があり、変わった人だなぁ・・・と見ると、中村征夫さんでした。
ふつうのせっかち日本人とは全然違うものを見て、長~い息をされているのだろうと思った次第です。

写真とピアノのコラボ、楽しいひとときでした。
中村征夫写真展「ひさかた」は、7月4日から7月10日まで、キャノンギャラリー銀座 で行われます。

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