久元 祐子 『楽器探訪』

piano , Klavier , pianoforte

  
Boesendorfer Emperor
  Johann Strauss 
Louis Dulcken
Graf(1839)
Pleyel (1843) 
Erard (1868) 工事中

Boesendorfer "Johann Strauss Model"

長年愛用してきた自宅のピアノです。
製品番号20290。1911年製です。
タッチは、軽め、貴重な総一枚象牙です。
モーツァルトなどには、すこぶる上機嫌で連れ添ってくれる相手ですが、強靱な音量とパワーを必要とするロシアものや打楽器的にピアノを使うバルトークなどにはあまり向かない楽器かもしれません。
オールマイティな楽器という面では、スタインウェイに軍配が上がると思うのですが、ウィーンの佳き時代の伝統、モーツァルト時代から引き継がれてきたヨーロッパの香り、という面では、大きな魅力を持った楽器です。

ベーゼンドルファーには、スタンダードモデルのほかに、いくつか、スペシャルモデルがあります。
ウィーンの音楽の伝統の豊かさを表すフランツ・シューベルト・モデル、ヴィエナ・モデルなどもあれば、遊び心で作ったようなヨット・モデル、ポルシェ・モデルなどもあります。
ベーゼンドルファーにゆかりの深い、そしてウィーンのワルツ王にちなんだモデルが、この「ヨハン・シュトラウス・モデル」です。

ウィーンの音楽史とベーゼンドルファーは密接な関係にあり、あの偉大な音楽家ヨハン・シュトラウスU世がベーゼンドルファを愛用していたことでも知られます。
そのシュトラウスの家のベーゼンドルファ記念館に展示されているピアノと同型です。

ベーゼンドルファーのスタッフの方に尋ねると、ウィーンでは、国歌よりヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」のほうがはるかに国民に愛されているとか。今も年頃になると「舞踏会」にデビューする習慣が残っているといいます。。
現代もこのシュトラウス・モデルは製造されており、それらの復刻版を弾くことも多いのですが、そのオリジナルにあたります。
日本のベーゼンドルファーショールームも、この美しいヨハンシュトラウスモデルが、看板娘としてお客様をお迎えしています。

ご覧のように、ピンの下は、無垢の木で、鋳鉄でがっちりと組まれている現代のスタインウェイなどに比べて、手づくり感が残る、やわらかな感じです。

響板をあけると、中は、白木です。
家に来られるお客様たちは、まず
「わあ、綺麗な楽器!」
と色白の美肌を皆さんほめてくださいます。
当時は、木も豊富で、おそらく木の中でも選りすぐりのものだけを使い、あとは廃棄処分、そしてゆっくりゆっくりと自然乾燥、そうしたスローライフな豊かな時代だったと思われます。
100年あまりたってもまったく木がゆがんでいないことに驚きます。



足は、ちょっと太めの猫足。
「ボクの彼女はマジパンのような足」
女性の足のほめ言葉がウィーンのオペレッタに出てきますが、柔らかい曲線を描くような独特の足の形です。
実は、この部分、ネジで回しているので、お引っ越しのときには、要注意の場所です。
番号を書いて間違えないように嵌め込まないと大変なことになってしまいます。
来年100歳のお誕生日を迎える私の愛器。
足のネジのあたりは、やわにできていますから、地震が来ないことを祈るばかりです。

譜面代やら椅子の脚やらいろいろ写ってしまってごめんなさい。
何といっても自分のスタジオなので物がいっぱい。
あしからず。。

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