レオポルト・モーツァルト  

Johann Georg Leopold Mozart  1719 - 87

演奏に関する「箴言」

はじめに
クヴァンツ
テュルク
C.バーニー
L・モーツァルト
スタンダール
R.シューマン
C.ドビュッシー
フィッシャー
ゲオン
ランドフスカ 
ザウアー
スコダ
ブレンデル
武満 徹
C.ローゼン
浅田 彰
Johann Georg Leopold Mozart

中世から続く自由都市アウグスブルクで生まれ、ザルツブルクに移り住む。大司教に仕えたが、副楽長にしかなれなかった。幼少のモーツァルトを連れて、ヨーロッパ中を演奏旅行し、天才「モーツァルト」の父として知られる。現在でも教則本に使われるヴァイオリン奏法の教科書を著すなど教育者としても傑出した存在で、歴史に if が許されるなら、神童の息子を持たなければ、レオポルド・モーツァルトの名は、数々の教会音楽、器楽音楽、室内楽を作曲し、優れたヴァイオリン教則本を著したザルツブルクの「宮廷楽長」として、18世紀音楽史の片隅にその名を残したことだろう。
遅い曲の中のパッセージでは,・・・符点は長く保持することがあります。
もしも眠気たっぷりな演奏をしたくなければ、です。
・・・符点音符は幾分長く保たれますが、この少し長くなった分はその次の音から、いわば盗まなくてはなりません。
・・・実際、符点はいつもその値よりも幾分長めに弾かなければなりません。
それによって演奏が活気づくだけではなく、一般的な欠点である急ぐことを抑制します。さもなければ、符点を短くすることによって曲は速度を増しやすくなります。

レオポルト・モーツァルト

この指摘はとても重要だと思います。付点が充分に保たれず、せかせかとあせって弾かれるモーツァルトの演奏ほど悲惨なものはないからです。
先を急ぐ原因が、しばしば付点の長さが十分に保たれていないことにある、というのは慧眼だと思います。

指示されているピアノとフォルテは、非常に正確に守らなければなりませんし、・・いつもひとつの音色で弾いてはなりません。
もちろん、指示なしでも自分の判断で、ピアノからフォルテへ必要な時、変えることを知らなければなりません。
これは、画家のよく使う言い回しの、光と影です。

レオポルト・モーツァルト

レオポルト・モーツァルトが、フォルテとピアノを、「光」と「影」というイメージで捉えていたことは、モーツァルトを弾くときのイメージにも応用できます。「強い」「弱い」という物理的なイメージだけでディナーミクの変化を表現しようとすると、それは、ときとして単調、画一的になりがちです。
視覚的なイメージで、フォルテとピアノの対比を捉える、という発想は、ある意味で新鮮です。

# や ナチュラルで上げられている音は、幾分強く弾かれなければなりません。
そして、旋律の進行中に再び弱くなっていきます。
同様にして、♭ やナチュラルで突然音が下がる場合は、フォルテで目立たせなければなりません。
短い音符と混ざっている2分音符には、強いアクセントをつけ、そしてまた音をやわらげるのが慣例です。

レオポルト・モーツァルト

ウィーン原典版でモーツァルトを弾きますと、ディナーミクがほとんどつけられていませんので、自分で判断する必要に迫られます。
このとき、このようなレオポルト・モーツァルトの指摘が生きてくるわけです。上の引用はほんの一例ですが、とても参考になります。
もちろん、ほかのジャンルのモーツァルトの優れた演奏をききこみ、モーツァルトの息づかいに馴染むことも大切だと思います。

(引用文献)レオポルド・モーツァルト「バイオリン奏法」塚原哲夫訳 
       (全音楽譜出版社)

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